最近「宇宙」にまつわる話題が増えてきました。例えば、宇宙旅行や民間ロケット、はやぶさ2、宇宙ビジネスなど。そして、その中に【宇宙教育】というキーワードもあります。
しかし、宇宙教育がどういったものなのか、多くの方は知らないかもしれません。
そこで、この記事では、元JAXA宇宙教育センター主任が、宇宙教育の本質と、次のステージに向けた新たな取り組みについて、ご紹介します。
【この記事を読んでわかること】
- JAXAが掲げる宇宙教育の理念
- 宇宙教育の父「的川泰宣さん」の思い
- SDGsとの共通点
- 次のステージに向けた新たな取り組み
- おすすめのワークショップ
「宇宙教育」って何モノ?
-- 宇宙【の】教育ですか?
はい、多くの方はそのように言います。宇宙を学ぶ、宇宙に詳しくなる、そんな感じの意味ですね。
でも、少し範囲が狭い気がします。もちろん、まったくの間違いではありません。いろいろな団体がいろいろな思いで宇宙教育を実践していますから。
-- あなたのいう「宇宙教育」って何モノですか?
たしかに「○○教育」というと普通は「○○【の】教育」ですよね。しかし、宇宙教育にはもっと奥が深い理念があるんです。
JAXA宇宙教育センターが掲げる理念
私はかつて、JAXA宇宙教育センターに勤務していました。宇宙教育の推進がミッションです。その宇宙教育センターのホームページにはこう書かれています。
宇宙が子どもたちの心に火をつける ~宇宙教育センターの理念~
日本各地を駆け回りながら、宇宙の教育活動を通して常に実感するのは、子どもたちは生身の自然や生き物が大好きだということです。中でも、宇宙の謎は彼らの好奇心や想像力をかきたて、人類の宇宙への挑戦過程は冒険心を刺激するのです。子どもたちの強い好奇心や冒険心を拠点に、その秘密を解き明かすための科学へと深い関心が向くように導きたい。そのために、我々の宇宙探求や宇宙開発で得られた知識や技術、宇宙に対する内発的な想いを総動員していく。そこに、宇宙教育センターがこれからの日本を担う子どもたちのために働く意味があると思うのです。
出典:JAXA宇宙教育センター HPより
つまり、子どもたちが科学技術に関心を持つよう、JAXAが持っている宇宙に関する知識や技術を使って教育活動をしましょう、ということです。最近は、宇宙【で】教育と呼んでいます。
ご存知の方も多いと思いますが、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構) は文部科学省が所管する機関です。なので「宇宙で教育=宇宙を使って教育」という考え方はとても自然ですね。
もう少し続けます。
以下は、JAXA宇宙教育センターのホームページの続きです。
そして、その礎に”いのちの大切さ“があってこそ、これからの国づくり・未来を担う大きな力となっていくのではないかと考えるのです。
出典:JAXA宇宙教育センター HPより
強調したいのは、この引用で太字になっている部分。
さらっと書かれていますが、実は、ここが宇宙教育の本質なのです。
なぜ、ここが本質なのか?
それは、JAXA名誉教授の一人、的川泰宣さん(上の写真の左側)の思いにあります。
詳しい方ならよくご存じかと思いますが、的川先生は『宇宙教育の父』ともいわれています。JAXAに宇宙教育センターを設立し、日本の宇宙教育を牽引してきた方です。
的川先生は、JAXA宇宙教育センターの他に、KU-MA「子ども・宇宙・未来の会」というNPO法人も設立されました。そして設立の思いを語る中で、こう述べています。
宇宙という新しい視点で大好きな自然や生命を見ることから、自然の不思議さを感じ、さらに科学の謎解きの素晴らしさの一部に触れた子どもたちは、自ら周辺の事物や事柄に一層生き生きと接しようとします。そして自らの体験の中から、「いのちの尊さ」と「生きる意味」を学ぶようになっていきます。この最初のきっかけ作りのチャンスを私たち大人が大規模に整えてあげなければいけないと考えます。
出典:KU-MA こども・宇宙・未来の会 HP YKコラム「新たな地平を目指して」より
宇宙教育は単なるSTEM教育ではない
日本の宇宙教育は単なるSTEM教育ではありません。
どうしても宇宙というと、理科や物理、科学技術に結び付きます。まして、JAXAという宇宙開発を担う国の機関が宇宙教育を推進しているとなれば一層そうなるでしょう。ちなみに、NASAは明確に「宇宙教育はSTEM教育」と言っています。
しかし、的川先生はSTEMの先に命の尊さを明確に据えて宇宙教育センターを設立しました。それは、的川先生が幼い頃に経験した、人間同士が傷つけあう戦争のような行為を繰り返してはいけない、科学技術の使い方を考えよう、と訴えているのだと思います。
私は、どんな活動をするときも「的川先生の思い」を忘れずに行動してきました。そして、株式会社 SpacePLAN-K が取り組む「宇宙を使った教育=宇宙【で】教育」では【思いやり】という言葉に、その思いを込めています。
私は、日本の宇宙教育の根底にある理念を多くの人たちに知ってほしいと思っています。さらに子どもたちだけでなく、子どもたちをリードしていく大人たちにも宇宙教育を広げていかなければならないと考えています。
その突破口となるのが【SDGs】なのかもしれません。
SDGsと宇宙教育
最近話題の【SDGs】では、理念のひとつに「誰一人取り残さない」を掲げています。つまり、他者を思いやり、助け合いながら未来へ駒を進めていこう、という思想です。
いかがでしょうか?
ここに、SDGsと宇宙教育の共通点が見えてきました。
宇宙教育は、SDGsと同じ世界を目指しているのです。
次のステージに向けた新たな取り組み
私はJAXAから独立した後も『宇宙教育』というキーワードを使ってきました。
しかし、その字面から「宇宙【で】教育」という意味合いで受け取りにくいとも感じています。実は、JAXAの中でも議論があって、今も様々な投げかけがなされている所でもあります。
例えば、宇宙教育センターのアドバイザーで 独立行政法人教職員支援機構 次世代教育推進センター 上席フェローの百合田真樹人さんは「平成30年度 JAXA宇宙教育シンポジウム基調講演」の中で、こう述べています。
つまり「宇宙教育」というときによく言われる、宇宙を教える、宇宙をどうのこうの、というものではなく、“宇宙”と“教育”が同じグラウンドに並列して立っているという認識でとらえるべきではないかと考える。教育内容としての“宇宙”ではなく、“宇宙”と“教育”とを並列してとらえた教育実践であることを示すために、私は提案として「宇宙・教育」と表記している。
平成30年度 JAXA宇宙教育シンポジウム基調講演「摘録」より
私は、この提案に大きく揺さぶられました。
そして、2020年7月に設立した株式会社 SpacePLAN-Kでは【SDGs×宇宙×教育】を新たなキーワードに掲げ、活動しています。
つまり、活動の原点は「いのちの大切さ」であり「いのちをつないでいくこと」。それは「持続可能な世界」を意味しています。そして、持続可能な世界を目指す道標・羅針盤として「SDGs=持続可能な開発目標」があります。
また、SDGsを達成するためには、私たち一人一人の行動が大きく関わってきます。私たちがどう行動するか、それを「行動規範」として各々が定めていく必要があると思うのです。
行動規範を定めていくのは、個々人かもしれないし、企業や団体のような組織かもしれません。
行動規範を作り出す原動力は、過去から学ぶ「教訓」であったり、未来を思い描く「夢」であったり、「驚き」や「感動」あるいは「哀しみ」といった「情動」、行動を引き起こす「衝動」であったりするのではないでしょうか?
そんな原動力をはぐむ素材として「宇宙」があり、機会としての「教育」があると思います。そして宇宙は私たちに様々な「視座」も与えてくれます。
例えば、身近な事件から遠く離れたところで起こっている出来事までを見つめる「空間の視座」や、いま起こっている事から遠い昔にあった天変地異、将来起こるかもしれないサプライズまでを見つめる「時間の視座」です。
この「空間の視座」と「時間の視座」は、宇宙そのものといっても過言ではありません。
おすすめのワークショップ
こちらは、いま話題の『2030SDGsゲーム』を使ったワークショップです。
2030SDGs公認ファシリテーターと一緒に「宇宙の視座」を使って、10年先、50年先、1000年先の私たちのあるべき姿を想像しながら、今日からの行動変革につなげるヒントを探究しましょう。
ワークショップで得られるもの
テレビや新聞で目にすることが多くなったSDGsについて、よくわからない方も多いと思います。また個人で、あるいは法人や団体で具体的な活動を始めたものの、まだ「自分ごと」だと感じにくい方もたくさんいらっしゃいます。
・SDGsがどのような取り組みなのかよくわからない
・どのような行動を起こせばよいかわからない
・SDGsの達成に不可欠なバックキャスティングをもっと知りたい
このワークショップでは『2030SDGsゲーム』を通して、3つの効果をお届けします。
(1)なぜSDGsが必要なのか体感できる
(2)今日から起こすべき行動がわかる
(3)バックキャスティングの勘所がわかる
ワークショップの詳細は、こちら をご覧ください。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。
これからも「宇宙×教育」に役立つ情報を発信していきます。
(この記事はnoteのリライトです。)